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  3. 第87回 犬の居場所と在宅勤務(後半)

わんだふるな住まいの知識

ペットと暮らす住まいのポイントをケーススタディでご紹介します。

no.87

犬や猫と共に暮らすためのアイデア

犬の居場所と在宅勤務(後半)

前半では、在宅での作業が多くなった家族の生活スタイルに犬も適応するために、家族が自宅にいても、作業中は上手に待てるように「疑似お留守番」のトレーニングをお勧めしました。後半では、そのトレーニングを行うために、リビングといった家族空間と犬の居場所であるハウスの位置について、具体的に考えてみましょう。

仕事をする空間と、犬と遊ぶ空間を仕切る

リモートワークや学習を行うようになったこの数ヶ月、「今までは飼い主が家にいれば遊んでもらえていたのに、今は家にいても遊んでもらえない。どうしてなの?」というのが、犬の気持ちだと思います。人が自宅で仕事や作業をする時は、仕事をする空間と、犬と遊ぶ空間を仕切ることをおすすめします。犬にとっては、場所に「意味」を持たせる事ができるからです。しかし、スペース的な課題があって、個室を確保するのが難しいというのが現状でしょう。在宅勤務で仕事をするのに、書類を広げパソコンを広げられる場所がダイニング(又はリビング)だけというお宅は多いものです。

そこで、リビングと続き間のダイニングという間取りで、そこに犬の居場所があるお宅を一つの事例として図にしてみました。

通常、リビングは家族時間のための空間ですね。この場所で在宅勤務をするということは、同じ空間で人は「今は仕事している(ON)」「今は自由時間なので遊べる(OFF)」という二つの「時間」がある状態です。犬にその違いを理解させるには少し難しそうです。一つの空間を、犬にとって2つの空間として仕切る方法を考えます。棚やソファーなど大きめの家具は、犬から見ると壁のようなものですから、「仕切り」として利用できそうです。この事例では、犬の居場所であるサークルをダイニングからリビングの奥へ移動し、リビングとダイニングを仕切るようにソファーの向きも変えてみました。

こうすることで、人間からするとリビングとダイニングの空間は続いていますが、犬の居場所から見ると、ソファーが壁のようになって飼い主の姿は見えなくなります。これにより、大きな1つの空間の中でも、ONとOFFの2箇所の空間を犬に示してあげたことになり、人の居る「場所」によって「声をかけて良い(OFF)時」か「声をかけてはいけない(ON)時」かを示せるので、ルールとして学習しやすくなると考えられます。

「場所」によるルールを確立するポイント

「場所」によるルールを犬との間に確立するには、お互いが見えないようにすることがポイントです。犬のお留守番の場所であるサークルの配置と人の座り方の位置などを工夫して、お互いの視線が対面しないようにしましょう。ウッカリ目を合わせてしまうことによる、「かまってもらえる」という期待からの「要求吠え」を減らせます。人も、甘えた声を上げられて、ウッカリ振り向いたりしてしまっても、犬から見て人がソファーの裏で見えない状態ならば、反応した様子を犬に見られないので、上手に「今は構えないんだよ」という態度を貫くことが出来ます。上手に「要求吠え」に対して無視をできるので、「ONの場所」に人がいる時には、吠えてもても効果が無いと学習しやすくなります。

インテリアを工夫して「疑似お留守番」のトレーニングを

このようにして、仕事時間は可能な限り別々の部屋(スペース)で過ごしましょう。リビングで仕事をする方は、犬に背中を向けて、視線を交わさないこと。仕事の最中は一切相手をしないという意思を、犬にもわかるように体で表現することに努めましょう。そして、仕事を終えたなら、リビングの犬から見える空間に入って、笑顔で犬の呼びかけに対応しOFFであることを示し、沢山遊んで上げましょう。遊ぶ(OFF)の空間となる場所では、ラグなどを敷いて飛び跳ねても犬の足腰に優しいという「プレイスペース(参考『第16回 室内で犬と遊びながらトレーニング』)」として整備すれば、より効果的です。

一緒にいるにもかわらず犬を無視し続けるのは、飼い主にとっても犬にとってもつらいことです。苦労を減らすために、インテリアを工夫して自宅でも生活にメリハリをつけ、「疑似お留守番」ができるようにしましょう。これにより自立心も養われるため、コロナ禍後におきると考えられる「分離不安」への予防となるでしょう。

profile

金巻先生(一級建築士)

一級建築士・博士(工学)・家庭動物住環境研究家一級建築士事務所 かねまき・こくぼ空間工房 主宰。

犬や猫といった家庭動物(ペット)との暮らしをテーマにした建築設計と、環境コーディネーターとして活動。適正飼養と環境整備に向けた学術研究も進めている。著書に『犬・猫の気持ちで住まいの工夫』(彰国社)、『ねこと暮らす家づくり』(ワニブックス)、など。ペット防災のNPO法人ANICE理事。東京都動物愛護推進員。H25年度日本建築仕上学会学会賞(技術賞)「ペット共棲住空間用の建材に関する研究と技術開発」

  • 「猫と暮らす住まいのつくり方」

    ライフスタイルやプランに応じた住まいの実例が豊富!猫にとっての快適ポイントや危険対策がわかる!業者選び、内装材、予算などのお役立ち情報も!

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