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  3. 第75回 高齢者にこそとても大切な伴侶動物たち

にゃるほど犬猫塾

犬や猫たちの暮らしやしつけ、健康などについてご紹介します。

no.75

犬や猫と暮らすということ

高齢者にこそとても大切な伴侶動物たち

高齢者にも社会的役割を担うことが期待される現状

日本は超高齢社会(65才以上人口の28.4%)で、急速に高齢化の進む現状に、様々な面からの対応が急がれています。高齢者の長寿は世界一を誇っていますが、出生率の低下は既に人口の減少傾向にも関わり、就労人口の低下、それは国力の低下にも関わる重大な問題であり、健康な高齢者の就労までも期待される昨今です。しかし、一般的には増加する高齢者の健康を支える社会的経済負担の軽減に、高齢者が健全で自立する期間を長くすることが必要で、国家予算上高齢者の医療費は極度に増加しています。

さて、およそ半世紀前には50才は確かに高齢者でしたが、現在では定年退職も60~65才、今や10年以上若いと考えられます。それ故に60代以上の人々の力を維持し可能な限り社会的役割を担える支援が必要です。しかし高齢者は社会的接点を失うことで、その日常的な行動、会話、思考等に於いて社会的責務や必要性から離れることによって生活の質を大きく低下させ、更には心身の健康を失い社会的支援を必要とします。

高齢者が伴侶動物と暮らすことによる効果

高齢者が伴侶動物とふれ合ったり、共に暮らしたりすることによる効果については、近年世界的に多くの報告があります。

  • ・ 息づく命が傍にいることで緊張がほぐれ安心感が生まれる。
  • ・ 心を通わせ,愛し愛される相手を得ることが大きな生きがいとなる。
  • ・ 肩書きや年齢,貧富に関係ない愛情の対象となる。
  • ・ 生活のリズムが(規則的な生活)が保たれる。
  • ・ 声を出す(発語)機会が多くなる。
  • ・ 周囲との接点が広がる。
  • ・ 他言や反論のない話し相手となり,軟らかい温かい(動物達は約2~3度体温が高い)愛らしい存在として,高齢者の情緒的な必要性を満足させ愛情の対象となる。
  • ・ ストレスの減少。
  • ・ 身体を動かす(世話をする、しなくてはならない相手がいる。リハビリになる。)
  • ・ 責任感(この子(犬・猫)のために元気で長生きしたいと願う。)
  • ・ 笑顔になる、血圧、脈拍が安定する。
  • ・ 散歩の距離は3倍、友人の出来る率は5倍になる。
  • ・ 温かい触れ合いをすることで、幸せホルモン(オキシトシン等)が分泌する。
  • ・ 孤独感や疎外感から離脱し望みを見いだす。
  • ・ 希望の喪失や無力から立ち直らせてくれる。
  • ・ 健康で在宅が長くなり、通院回数が減り、投薬量が減る。

などが報告されています。

また、高齢者の健康を維持するための社会的経済負担の軽減に大きく役立つことが注目され、既にドイツ、オーストラリアでは2割の軽減が発表されています。

高齢者が伴侶動物と暮らすことによる問題点と課題

高齢者が伴侶動物と暮らすことには様々な問題点や課題もあります。

住環境の問題(在宅,ホーム,グループホーム等ペット不可)、独居の高齢者の場合、高齢者自身、そして共に暮らす動物双方の経済、生活、医療。衛生管理、健康管理、しつけ(動物との生活のトータルケアにおいて援助が必要)。死亡や入院時に関わる問題点の解決、などです。また、新たに保護犬、猫との暮らしを始めようと考えた際、動物の将来を考えてのことではありますが、保護団体には独居の60才以上の方には譲渡しないなどの制限もあります。

これらの問題を解決するために、在宅飼育者への社会的サポートとして地域包括ケアシステム制度(地域での繋がり、老人クラブや自治会などの通いの場に伴侶動物と共に参加するなど)、動物民生委員(仮称)制度などの確立。高齢動物ケアセンターの設立等が急がれます。また最近は動物と入居出来る高齢者ホームも設立され始めました。これこそ多くの方々が願う施設です。各地に増設されることを願います。

また、年齢に関係なく伴侶動物との別れは辛いものですが、高齢者の場合は最後の家族との別れになりますから特別な配慮が必要になります。

赤坂動物病院のプログラム

赤坂動物病院では「70才からパピー(子犬)、キトン(子猫)と共に」のプログラムを発信しています。日本の女性は平均寿命が86才です。70才でスタートすると16年間、日本の犬の平均寿命を2年近く越え、猫の平均寿命とほぼ同じです。「16年間共に元気で幸せに暮らして頂きたい」の願いを持ってスタートしたプログラムです。勿論健康上の理由や死去などで途中世話の出来なくなることも想定し、初めからそのためのお約束も準備して支援します。このプログラムは、決して子犬、子猫だけではなく、保護されたり、様々な理由で飼えなくなった方の動物たちを当院で健康と行動学的チェックを行った上で希望される高齢者に適切な家族としてふさわしいかを十分に検討したうえで、幸せな家族の誕生を支援しています。

このプログラムでは年齢や健康状態により定期的にお声を掛けて安全を見守っています。

今後、多くの動物病院がこのような取り組みを進め、高齢者と伴侶動物の幸せな未来が広がることを願っています。

profile

柴内裕子先生(獣医師)

赤坂動物病院 名誉院長

日頃より伴侶動物医療に携る一方で、社会活動コンパニオンアニマルパートナーシッププログラム(CAPP)のリーダーとして高齢者や障害者の各種施設や病院、小学校などを動物たちと共に訪問するボランティア活動に幅広く活躍されています。(柴内先生には、東リ「犬家猫館」の製品開発の際にもさまざまなアドバイスをいただいております)