海外情報
フィンランドフォーラム

2020.12.24 / ソニー・ナカイ(グラフィックデザイナー、在フィンランド) フィンランドの建築家 Matti Sanaksenaho すべての基本は手で作るところから始まる。そこからデザインが生まれるという信念を持っています。

それでは室内へお邪魔します

ご存知のように、フィンランドの住宅では間仕切り壁やドアを最小限にして、動きやすいスペースを演出しています。トゥパケイッティオ(Tupa=居間とKeittio=台所)とはリビングとキッチンの一体空間ですが、単なるLDでもなく、適切な日本語も英語も見つかりません。代々受け継がれてきた建築スタイルで、農家住宅によく見られます。家族全員が一緒に過ごす場であり、壁のない一部屋の中に暖房調理兼用の大きなストーブがあります。最近の新築住居の多くは、1~2階が吹き抜けとなっていますが、2階から見下ろすトゥパケイッティオの広い空間に、大きな窓からの自然光が存分に射し込み、暖炉の熱は2階にも循環します。

全体で大きな一部屋のTupakeittioになっている空間をバランスよくまとめることが、建築家夫婦にとって、楽しい仕事のようです。さすがに、家具はデンマークとフィンランドの巨匠の名作が勢ぞろいしています。
暖炉の背後にある階段の壁には、いっぱいのアートが飾られて、造り付の書棚です。
窓からの自然光を大切にしていますが、逆に外からの視線を気にしてないようです。
広い庭へ続くドアがあり、外から見えるインテリアも建築家の狙いのひとつでしょう。
台所と暖炉と居間が一体化した、伝統的ワンルームのトゥパケイッティオです。大きな窓は今日的。
庭に、いかにもこの建物の守護神のごとく、この敷地の来歴を語る大樹が共存していました。
玄関を入ると正方形の窓絵画のごとく、守護神はフレームに収まっていました。

サウナのルールで癒される

そして、やはりこのお宅もサウナなしには語れません。フィンランド人のルールです。

居間から続く通路奥のサウナを見る 薄暗いサウナ室 サウナ室前から居間方向を見る。
伝統的なサウナは暗さを保ち、癒しを求める空間です。大事なルールは、無口でいること、難しい話は避けること。
サウナからテラスに続きます。熱いサウナから飛び出し、真冬の冷えた空気に触れる一瞬は忘れられません。サウナドアのハンドルは、森で見つけた魔法の枝!ベンチで熱い体を癒す至福の時間が壁に残っていました。
背中が当たるところが色あせるほど、いかに長い時間、そこに座って冷えたビールを味わっていたのでしょうか?
広いテラスはオーバーハングの屋根付きなので、雨天でもバーベキューパーティができます。

2階のスペース

2階は仕事場のアトリエと寝室です。階段横の手摺壁は、外壁端部の鋭く突出する形になっています。
そして、大きな天窓から降り注ぐ自然光と、木々の葉が風に揺れ動く様子が見えて、心が安らぎます。
2階廊下手摺から1階を眺め、通路添いのカウンターの上には模型作品が並びます。
突き当りの ドアはベッドルーム。仕事場のアトリエにもトップライト。
マッティは1912年にイタリアのベネツィアで開催された建築ビエンナーレに参加しました。

参加者が自作アートを紹介するイベントがあり、その時の彼の作品に手を添えて、ポーズをとってもらいました。
右は使い古されたアールトの三本脚スツール。アールト家具販売アルテックでも、中古スツールを販売しています。
それぞれの想いを込めて修理し、新しいデザインを創作することは、さすが、サステイナブルなアールト家具です。

彼らの建築は 日本の建築専門誌GAとa+uでも特集されました。彼らの自邸も紹介されています。
中国の湖畔に建てられた施設の外観とインテリア、素晴らしいロケーションです。
2020年もクリスマスシーズンが始まっています。

さて、今週から2回目の外出自粛が始まり、前と同じように公共施設やレストランは閉鎖になりました。でも今回は、3週間くらいが目処というので、年あけには解禁と予想されています。北欧最大級のストックマン百貨店正面入り口の通り沿いに、イルミネーションが暗い街を輝かせ、ショーウインドウのクリスマスデコレーションが子ども達をワクワクさせます。デパート前の市電乗り場でトラムナンバー4番に乗れば、大聖堂前を通って、ストックホルム-ヘルシンキを往復するバイキングライン豪華船ターミナルに行きます。
大聖堂広場の恒例のイベントは、ルシア祭パレードです。ルシアに選ばれた白衣姿の若い女性が頭にキャンドルの輪を置いて、広場から街へ練り歩きます。行列の先頭はトナカイのソリに乗ったサンタクロースで、愛嬌を振りまき、ぬいぐるみの動物達の中には、ムーミンも仲間入りします。今年はサンタもステイホーム?

小さな女子が背伸びで窓に寄りかかりながらクリスマスデコレーションを覗いています。
気持ち良さそうに居眠りする子犬の傍に置かれた巻紙はクリスマスメッセージです。毎年12月24日の昼に、フィンランドの古都トゥルクの市長さんがサンタクロースからのメッセージを読み上げる様子は、テレビで放映されます。クリスマスの日々は、誰もが互いに親切にすることを誓うのです。もしこの間に罪を犯せば、普段の倍の罰金刑になります!

(コメント)

エキュメリカル教会のことでソニーさんにお聞きしました。
・・・キリスト教の宗派は大きく分けると、旧教カトリック(英国国教会を含む)、ルーテル派を含むプロテスタント(新教)、東方の正教会の三つを主流として、それぞれからいくつも分かれています。以前、エルサレムにあるキリストの墓といわれる聖地を訪れた時、その屋根に3つの少し異なった十字架があることに驚き、複雑な気持ちになりました。キリストの墓に宗教的な争いが象徴されているように見えたからです。キリスト教は、宗教として考えていますが、多分に政治的なものかもしれません。フィンランドのトゥルクに建てられたエキュメリカルチャペルは宗派を問わないので、十字架もキリスト像もありません。エキュメリック・アート礼拝堂とも紹介されており、頻繁にアート作品が展示されています・・・(ソニー談)

フィンランドでは、誰もが熱心なキリスト教信者というわけではありません。日本のルーテル教会に通う日本人の信者の方が強い信仰心を抱いていたことを思い出しました。でも、日常の中に信じる心があれば、宗派の違いを問うことはあまり意味がないかもしれません。礼拝堂や教会建築に見る印象の深い空間が、ひと時でも清新で豊かな心に導いてくれるなら、素晴らしいことであり、アートの力もそれにつながるでしょう。
それにしても、マッティさんにはずいぶん以前にお会いしましたが、貫禄が付いて、すっかり、巨匠っぽくなりました。

(せきゆうこ フィンランドフォーラムコーディネータ)

その他のフィンランドフォーラム