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フィンランドフォーラム

2020.9.24 / ソニー・ナカイ(グラフィックデザイナー、在フィンランド) とっておきの「涼」をお届け ~フィンランドの夏景色 自然豊かな田舎の環境に触れ、フィンランド民族のエッセンスを感じる

北欧からの残暑お見舞い

日々の報道を見ると、東アジアにおける感染者数と死亡数が少ないことに驚きます。ヨーロッパ諸国は被害者数が膨大ですが、アジア圏とのコントラストが際立ちます。コロナ感染を原因とする死者数は、確かにインフルエンザよりは少ないのですが、特効薬やワクチンがないことから、パンデミックの扱いになっているのでしょう。ロックダウンが解除されて、現在はほぼ以前の生活リズムに戻りましたが、駅や店舗、スーパーやレストランから学校など、至る所に消毒液が用意されています。ソーシャル ディスタンスを訴えるキャンペーンの影響で、日常的な衛生管理が習慣になってきました。
1970 年代には、日本人がマスクをしている様子が珍しがられました。日本の大都市の大気汚染がひどい、という誤ったコメントまであり、スモッグ対策と思われたようです。「自分が風邪気味の時に、他者に感染させないための心配りのマスクだ」と説明しました。今回のコロナの影響で、フィンランドの日常にもマスクは馴染んでくることでしょう。国会でマスク着用が決定されたにもかかわらず、いまだ 30%程度の着用率ですが、今後習慣になることは間違いないと思います。
感染の第2波が静かに広がる中で、まだ行動制限措置は出ていません。これ以上、経済面の影響を抑えたいからでしょう。報道にも不確定な一面があり、確信できることはないし、世の中の動きは簡単にわかりません。一般市民には自由な選択の余地があるようで、実はそうでも無い、という中途半端な現実を感じています。
日本でも、新型コロナの影響と猛暑で、厳しい夏が続いたことでしょう。そこで、一服の涼をお届けいたします。都会のにぎやかさ、華やかさはありませんが、日々の喧騒に疲れ果てた心身を自然に寄り添わせ、爽やかな気分を満喫してください。

フィンランドの涼しい夏

夏休みは、自然豊かな田舎の環境に触れ、フィンランド民族のエッセンスを感じるのに最適です。夏の間、気温が30度になるのは、数日しかありません。湿度も低いので、クーラーを家に設置する必要も無いのです。屋内外とも適切な気温と湿度が保たれているわけですから、これほど豪華な夏があるでしょうか?
ヘルシンキから西へ 150 ㎞の海岸に沿って、リゾート地があります。昔のままの村が残り、海を臨む丘に、ログ構造のコテージが建てられています。この小さな村の昔から変わらない雰囲気を紹介しましょう。
首都ヘルシンキから古都トゥルクに向かう途中のサロ Salo から約 30 ㎞で、このリゾート、メリテイヨMeriTeijoの海辺に着きます。住人から聞きましたところ、日本人の観光客もぽつぽつ姿を現し始めたということです。人気スポットになりそうなメリテイヨはリゾート名であり、村の名前はマチルダンMathildan といいます。

小川のほとりに建つサマーコテージ、水の流れる音が共存する生活は、豊かな暮らしの一場面です。天気の 良い朝はここで、最高に豪華な朝食をどうぞ。

村に一軒の食料品店には、冷蔵庫として使われている部屋があり、冷蔵・冷凍の食品が並んでいます。お客は自分でその扉を開けて食料品を探すのですが、その数分間だけ冷凍人間になるような面白さ。店の一画では、ビールを傾けながら人々の会話が弾み、村人のミーティングポイントになっています。
一昔前まで、フィンランドでは水力発電で電気を起こしていました。ここにもその風景が残っています。古くなった日用品を庭のガーデン用に再利用し、白ネズミのぬいぐるみによるネズミ界を創作しています。どれもこれ も高価な物ではなく、自然と作り手の感性を生かしされた庭は、興味の尽きない眺めでした。自然と共生する豊かさが、この村には溢れています。

小川の自然を利用にて、水車が回っています。子供に「水の力」を教えるのにも良い自然環境ですね。

夏のアミューズメント

昔の工場は、村の工業発展の歴史を展示するMathildan産業革命ミュージアムに生まれ変わりました。古い車や機械を通して、昔を語ってくれます。建物の内部にも小川の流れを引き込み、海と森に囲まれたフィンランドの村の風景が、ほぼ昔の姿を残しています。室内に水路がある空間は何ともゴージャスな雰囲気です。

昔の工場は、村の工業発展の歴史を展示する Mathildan 産業革命ミュージアム。
村唯一の骨董品屋さんは、残念ながらこの日はお休みでした。古い灰色の帽子を、ここで買ったことがあります。とても気に入ったので、それをきっかけに帽子をかぶる習慣が身に付いたのですが、空港に置き忘れて、そのまま古い帽子との再会はありません。開いていれば、馴染みのお婆さんにご挨拶して、愛想のよい笑顔を写真に収めたのに。

ヨットハーバーの周りに、10件程のレストランやカフェ、ピッツェリアなどがあり、夏は国内からの観光客でどの店も込み合っています。反対に冬は一気にゴーストビレッジになるというのも、フィンランドの避暑地の常です。夏だけのシアターもありますので、まだ明るくて涼しい夕べにお芝居を鑑賞しました。適当に配置されたベンチが観客席となる豪華さ!
赤レンガと木造、黒の細い鉄材のベンチ脚のシルエットが整然と並んでいます。ベンチは黒。他に目立つ色彩は使用していません。

昔は倉庫だったのか、それとも、住まいであったのかわかりません。仮面のような正面は楽しさが伝わります。
森に囲まれた劇場は、豪華なわけではありませんが、夏の夕べのひと時、森の空気に包まれて演技を鑑賞できるのは最高です。コメディータッチの演目が多く、この夏は7月10日から8月20日まで25回の公演でした。入場料金は25ユーロなので、どれ程の収入があるのかと首をかしげてしまいますが、役者たちが趣味と趣向を発揮して演じているのだと思います。

アルパカ牧場は、アルパカ一家を人間一家が観察に来る人気スポットです。アルパカ家ファミリーの飼い主はブティックの経営者で、その毛を糸に紡いで編んだ服や小物を扱う、フィンランド風のデザインアパレルです。一年の間に長く伸びきったアルパカの毛は、春から夏前に刈り取ります。

お年寄りのアルパカが、きれいに毛を刈られて、のんびりと座ったままで、観光客のお相手をしています。漫画に出てくるだれかの顔に似ていませんか? 手編みアルパカウール品のアトリエショップの看板には、古い紡績巻取機が使われていました。この建物も昔の学校や工場を連想させます。
元地主一家の屋敷はカフェテリアに変わり、広い庭園に古い椅子やテーブルがランダムに置かれています。豊かな自然の中では、テイストの異なるインテリア家具も、自然に溶け込むせいか、違和感はありません。
村のところどころに池があります。日本庭園を連想するような静けさで、奥のベンチにひっそり座りたいです。
他都市の大規模なヨットハーバーとは比べものになりませんが、海外のゲストヨットも見かけます。
近くに、冬はスキーコース、夏は坂下りカートのコースになる遊び場があります。エンジンはないので、ただスピードとブレーキを調整しながら坂道を下るエコなスポーツ。戻るときは、スキー場用のロープウェイで車の背にロープをかけて、出発点まで運んでくれます。馬の牧場にはポニーもいるので、管理人に頼めば、子供たちも乗馬体験ができます。大きな馬小屋の妻壁に「1939」と記されていますので、築80年の建物です。

そして海辺のサウナは、1時間から2時間かけてゆっくり温めます。薪は用意してあるので、自分で薪割りをする必要はありません。海の景色を楽しみながら、サウナストーブに薪を継ぎ足していくと 1 時間で室温は約 60になります。120度の高温がお好みならば、2時間くらい、火の番をしてください。汗をかいた後、水温が20度 の海へ飛び込みます。最後には定番の冷たいビールと焼きソーセージを静かにお楽しみください。

夕日の静けさに包まれて、サウナの後、冷たい水に飛び込む豪華さは、忘れられない夏の思い出。

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