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フィンランド最新建築情報

美術館と図書館に見る北欧社会

2019.3.15 / ソニー・ナカイ(グラフィックデザイナー、在フィンランド)

Oodi(オーディ または ウーディ)ヘルシンキ中央図書館

さて、後半では、中央駅に隣接する新図書館についてお伝えしましょう。

公共建築のデザインコンセプトは大きく変わり始め、その変化の速さにも驚いています。新しい教育施設には、通常のコミュニケーションスペースのほかに、横になって休んだり携帯メールもOKというプライベートな時間とスペースを確保できるようになっています。オーディ図書館はその先駆けです。

2018年初秋にAmos Rex美術館、そしてクリスマス直前には、待望のオーディ図書館がオープンして、ヘルシンキ中央駅周辺に広がる著名建築家の建築が並ぶエリアに仲間入りをしました。
元々この地域の近代都市計画は、トーロ湖畔に1970年アルバー・アアルト設計のフィンディアホールが計画された時に始まります。その後、キアズマ現代美術館、ガラス張りのヘルシンキ・メディア新聞社、ミュージックホールが続きました。樹木に囲まれた湖畔に沿って散歩道と広い公園が続き、国立オペラ劇場につながっています。

Exterior

外観は期待通りの斬新なデザイン性で、迫力あふれる流動的な造形です。上方はウェイブ形のガラス張り、下層部は木目の外壁であり、異素材の対比と融合を表現する斬新な魅力があります。このウェイブ形はインテリアにも多く使われていました。

冬のオーディ図書館の全景。波形フォルムの窓ガラスが広がっています。右側は夜景。

冬のオーディ図書館の全景。波形フォルムの窓ガラスが広がっています。右側は夜景。

この角度の写真では、ダイナミックで鋭い線の流れが、建築自体が彫刻アートのようです。尖った先端から船の舳先を連想しましたが、特に海に関係するデザイン意図はないそうです。

この角度の写真では、ダイナミックで鋭い線の流れが、建築自体が彫刻アートのようです。尖った先端から船の舳先を連想しましたが、特に海に関係するデザイン意図はないそうです。

オ―ディ図書館の完成予想グラフィック画像から、その新しいデザインの感性に大きな期待が膨らみました。オープンして初めて入る時のワクワク感は期待そのもので、私は2時間も歩き回りました。

建築設計デザインは、ヘルシンキ市が主催した国際コンペティションでグランプリを受賞したフィンランドのALA Architectsが担当し、莫大な予算を投入して完成しました。市民のために税金を都市計画に投資して、「文化都市ヘルシンキは世界の先端を進んでいる」という印象を感じました。

税金の使途は透明化されています。透明度世界1位はオランダですが、フィンランドは2位にランクされています。税金の使い道が納税者に明確に伝わるようにシステム化されて、誰でも検索できます。これは社会を維持するための基本であり、不透明な税の行方などは問題外です。生活の安心感と社会への貢献を理解することで、国への信頼と誇りが生まれるとともに、「暮らしやすい国イメージ」も定着していくでしょう。日本では消費税率アップで経済崩壊を予想する考えもあると聞きますが、税金が正しく使われて、そのプロセスが透明化されれば、未来を託する国民の教育や貧困層の最小化につながるのではないでしょうか。

Interior

私は、図書館としての新機能やインテリアの洗練を期待して入館しましたが、従来の図書館的な要素は、かなり少ないものでした。まず、エントランスのある1階は広いのですが、何処にも本がないので「図書館らしさ」は伝わってきません。デザインソファや椅子に座って休憩できるスペースが広がっています。カフェや映画館もあり、市民がゆったり出来るオアシスのような印象を受けました。

(写真左)期待を含まらせて図書館に入ると、広々としたロビーに空間のゆとりを感じました。しかし本は見られません。ロビーの後ろに映画館とカフェがあり、ショッピングモールの雰囲気です。人々は静かにしてはいますが、静粛さを強いる様子は特に見られません。椅子もたくさんあるので、ホテルのロビーという印象でもあります。(写真右)エレベーター、エスカレーター、階段は1階から3階までつながっています。2列に並んでもすれ違いのできるゆったりした幅です。

(写真左)期待を含まらせて図書館に入ると、広々としたロビーに空間のゆとりを感じました。しかし本は見られません。ロビーの後ろに映画館とカフェがあり、ショッピングモールの雰囲気です。人々は静かにしてはいますが、静粛さを強いる様子は特に見られません。椅子もたくさんあるので、ホテルのロビーという印象でもあります。
(写真右)エレベーター、エスカレーター、階段は1階から3階までつながっています。2列に並んでもすれ違いのできるゆったりした幅です。

階段で2階へ移動すると、ガラス張りの小さな部屋が並んでいて、中には大きなモニターとスクリーンがあります。幅広い廊下には、長いテーブルがあり、読書用とインターネット用に分かれています。囲われた読書スペースはなく、この階でも書棚は見つかりません。その代わりに、3Dコピー機や大型プリンター、ミシンやiPadなどが設置されて、誰でも予約で使えるシステムになっています。3Dプリンターなどは有料ですが、他は全て無料。会議の利用だけでなく、音楽室スタジオはバンドの練習もできます。

情報収集には「本よりもインターネット」という図書館のコンセプトが伝わります。一方、本や道具以外に、スポーツ用具も借りられます。
図書館とは、単なる教養のための施設ではなく、生活文化に関する幅広い知識と体験を得られる。多様性を受容する教育思想の一環であり、市民のための施設になっていると感じました。

会議室は予約で借りられる仕組みで、大きなモニターとラップトップパソコンに接続して、スクリーンも使用できます。インターネット検索や読書用のパソコンも設置されています。

会議室は予約で借りられる仕組みで、大きなモニターとラップトップパソコンに接続して、スクリーンも使用できます。インターネット検索や読書用のパソコンも設置されています。

幅の広い通路はスロープになっているので、ローラースケートをしたくなります。最上階に到達すると、壁のないスペースが一面に広がり、天井には丸いトップライトが点在しています。ようやく見つけた書棚の数が少ないことに驚きましたが、遮る壁のない、流動的な空間が広がります。自由な教育の姿勢を強く感じました。

3階へのスロープを歩いて、この広い空間に出ます。2列に並んでいる書棚は合計20台くらい。そもそも書籍数が少ないし、貸し出しで空になっている棚もありました。新しい図書館は本を貸すだけでなく、楽器、iPad、ミシン、スポーツ用品、3Dプリンターなど、生活文化を充実する道具を借りられる施設に変わっています。

3階へのスロープを歩いて、この広い空間に出ます。2列に並んでいる書棚は合計20台くらい。そもそも書籍数が少ないし、貸し出しで空になっている棚もありました。新しい図書館は本を貸すだけでなく、楽器、iPad、ミシン、スポーツ用品、3Dプリンターなど、生活文化を充実する道具を借りられる施設に変わっています。

幅広い通路に低い書架がありますが、通路の横に並んでいる感じです。ここは、書棚に囲まれた唯一の読書スペースですが、間仕切り壁がないので、書棚を増やす時は、簡単に配置を変えられます。しかし本の数は最小限で、PCの置いてないテーブルには、iPadで読書をする人もいました。

幅広い通路に低い書架がありますが、通路の横に並んでいる感じです。ここは、書棚に囲まれた唯一の読書スペースですが、間仕切り壁がないので、書棚を増やす時は、簡単に配置を変えられます。しかし本の数は最小限で、PCの置いてないテーブルには、iPadで読書をする人もいました。

(写真左)階段状のスペースでは、自分が落ち着ける自由な姿勢で、ゆっくり本を読むこともできます。(写真右)子供用コンピューター室があり、ゲームに熱中したければ、個室で友達と一緒に遊ぶこともできます。

(写真左)階段状のスペースでは、自分が落ち着ける自由な姿勢で、ゆっくり本を読むこともできます。
(写真右)子供用コンピューター室があり、ゲームに熱中したければ、個室で友達と一緒に遊ぶこともできます。

Service

(写真左)プロ仕様の大型カラープリンタ―。(写真右)オーディオや映像の貸出はiPadでもあり、専用の充電器コーナーもあります。

(写真左)プロ仕様の大型カラープリンタ―。
(写真右)オーディオや映像の貸出はiPadでもあり、専用の充電器コーナーもあります。

(写真左)3Dプリンターも予約使用OK。有料ですが、プリント機器10種類の材料も揃っています。(写真右)男性が持参した服を広げてミシンで縫っています。慣れた手付きのミシン操作は大したものです。

(写真左)3Dプリンターも予約使用OK。有料ですが、プリント機器10種類の材料も揃っています。
(写真右)男性が持参した服を広げてミシンで縫っています。慣れた手付きのミシン操作は大したものです。

オーディ図書館の中には、ほとんど壁がなく、ゆっくりとくつろげる自由な空気が広がっていました。気軽に本も読めるし、インターネットも自由に使える街なかのオアシスと感じました。静粛な図書館という固定観念は消え去り、カフェや映画鑑賞のデートスポットとしても過ごすことができます。市民のための優雅な施設という印象です。この規模の図書館が街の中心にあり、どれほどの税金が市民のために使われているのでしょうか?

人口密度の低いヘルシンキだからこそ実現できる、新しい文化生活のスタイルでしょうか?社会福祉国家というフィンランドの、デザイン精神、教育、自由な発想を大切にする社会環境が根本にあるのでしょう。国のイメージの発展のために、高い税金の使い方を透明化しています。さらに、国民の個性を磨きあげるために、デザインの重要性を理解しているということを、この図書館で改めて感じました。

これとよく似たコンセプトの建物は、5年程前にヘルシンキ大学内に登場しています。国立大学といっても、堅苦しい枠にはまらずに、自由な感性を育てるために先頭を走っているのです。
少し前ですが、図書館に隣接するフィンランド最大手の新聞社“サノマ社”社屋は、話題になりました。

新聞社の吹抜けロビーホールは迫力あるデザイン。エレベーターの動きが見えるので、新聞社のタイムレスな忙しさを感じます。

新聞社の吹抜けロビーホールは迫力あるデザイン。エレベーターの動きが見えるので、新聞社のタイムレスな忙しさを感じます。

社会の変化と根底にあるなにか

話はややそれますが、デンマークの美術大学でワークショップをした時に、イギリス人の大学教授が、彼自身の就職面接の体験を話してくれました。彼は厳しそうな女性面接官の前に座り、少し緊張して、難しい質問への答えに詰まって、汗をかいたそうです。面接が終わると、彼女は自己紹介をしてくれました。そこで彼女の学内の役割を聞いて驚いたそうです。彼女自身は掃除係であるけれど、教授とも平等な立場にあり、大学の方針を決断する一員であるということでした。

その翌日に、デンマークの有名な家具メーカーの工場を訪れました。工場へ一歩入ると、多くの移民従業員が仕事に携わっていました。CEOが移民採用の企業方針を説明してくれました。平等第一、社員全員の給料は同額に定め、他の権利も平等に扱っているとのことです。移民政策が浸透していることを肌で感じました。

この様な社会全体への思いやりから、新しい発想へ展開していくのではないかと思い始めています。

コメント

今回も刺激的な建築空間をリポートしていただき、ありがとうございました。噂には聞いていましたが、近年のヘルシンキ中心部再開発の動きが伝わってきます。あの、懐かしいバスターミナル周辺は変わっても、時代を語るBio Rex と、黄色い切符売り場とカフェは健在ですね。新規デザインの再開発の真っただ中で、昔のスタイルの建物を残しているところは、フィンランドらしいと思います。生活の中にある古いものの価値を大事にしているのでしょう。この地域は、マップや航空写真で見ても、時代ごとの変化を感じます。今度、現地に行くときはどんなふうになっているでしょう。でも、ちょっとバスに乗って出かければ、森と湖と小さいサウナ小屋の風景は、そのままと思います。

(せきゆうこ・フィンランドフォーラム・コーディネーター)