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いつでもどこでも、「誰かと一緒に美味しい食を」

レストランデイ【円形住宅】高層建築

2018.6.14 / ソニー・ナカイ(グラフィックデザイナー、在フィンランド)

私のフィンランド暮らしは長くなり、実に様々なことがあるのですが、先日、改めて魅力を感じることがありました。【常識】に拘束されず、自分の個性を大切にして生きる人に会ったのです。その人には身体障がいがあり、車椅子生活を余儀なくされたのですが、豊かな自然環境を取り込んだ住宅で、不要な物事を省き、極めてシンプルに、自分の暮らしを大事にしています。建築家でもあるコポネン氏が、自分と家族のために設計した【円形の家】をご紹介しましょう。

きっかけは、レストランデイ(Ravintola Päivä)

この家を訪れたきっかけは、レストランデイです。レストランデイとは、簡単に言えば、【一日レストラン経営】といえます。その日は、誰でも、好きな場所で、自分好みのレストランのオーナーシェフになり、自慢の腕前を披露して、お客様と一緒に食事を楽しむことができます。保健所などへの営業申請は必要ありません。 始まりは2011年5月。首都ヘルシンキで若者を中心にして「一緒に食べる」というムーヴメントです。初めは、一年に2、3回の開催でしたが、その後、ヨーロッパから世界に広まりつつあります。日本でも開催されていますか?

まず、インターネットでレストランデイ専用アプリを入手→レストランデイのサイトへ→希望する場所、時間、メニュー、価格などをアップします。すると、誰が、いつ、どこで、どんな、レストランを開くか、というマッピング情報が公開されて、実際に訪れることができるという仕組みです。場所の選択も時間帯もメニューも自由。公開情報なので、お互いにダブらないように配慮できます。ポップアップ思考で、公園、広場、自宅の庭、街角、ビーチといった具合で、どこでも営業許可なしで、この日限りのレストラン経営者になれます。設定価格は、普通に支払える程度の金額を推薦しています。メニューはエスニック料理から、カフェ、腕自慢の菓子パンまで、なんでもOK。多種多彩な専門家が料理の腕前を披露してくれます。実は、私のおいしいラーメンも、期待されています。

レストランデイのイメージ写真

レストランデイのイメージ写真

円形の家

レストランデイの場所が建築家の自邸ということで、私もとてもワクワクしていました。当日のメインディッシュは、パプリカにひき肉を詰めて焼いたもの。写真なしで申し訳ありませんが、ワイン付きで約8ユーロでした。

ランチの後に、住宅の内部見学の許可を得て、写真も撮影させてもらいました。この家を設計したコポネン氏は、とてもオープンマインドの方です。建築家である本人が車椅子を使っていることもあり、ヘルシンキ市当局からの支援を受けながら、このユニバーサルデザイン住宅が実現したそうです。外観というか、少し高い場所からの眺めはまさに50円硬貨です。

シンプルな全景を、斜め上方から見下ろしています。豊かな緑の森に降り立ったドーナツ型UFO?

シンプルな全景を、斜め上方から見下ろしています。豊かな緑の森に降り立ったドーナツ型UFO?

大きな丸窓のあるこじんまりした入り口を通り抜けると、中庭とインテリアが一体となった広いリビングスペースです。真ん中の屋根のないところが中庭で、素敵な自然が一杯。この俯瞰写真では、中庭は小さく見えるかもしれませんが、実際には室内よりも広いくらいに感じました。住宅全体の床面積は271m2(日本式だと、82坪!)もあります。

室内は流れるように空間が続き、視線はゆっくりと移動していきますが、隣にはいつも中庭!アアルトデザインの椅子とテーブルの向こうには、モダンな暖炉もあります。

室内は流れるように空間が続き、視線はゆっくりと移動していきますが、隣にはいつも中庭!アアルトデザインの椅子とテーブルの向こうには、モダンな暖炉もあります。

キッチンとリビングが一体の印象的な空間に入ると、コポネン氏が出迎えてくれました。映画『2001年宇宙の旅』に登場するスペース・ステーションを連想させるような通路が、室内をぐるっと、ひと回りしています。中庭は外界から切り離され、自分の時間を大切にできる【インナーコート】になっています。ここで360度見まわすと、バスルームや収納スペースは別にして、ガラス張りのインテリアの中に、間仕切りもドアもない子供部屋が、室内の一部になっています。本棚と読書スペースで区切り、子供部屋からベッドルームへと続きます。それぞれの部屋に扉がないのが、ユニークな点といえるでしょう。コポネンさんが「車椅子で自由に動きまわる」という考えが基本にあるのですが、そこには、家族間の気楽な雰囲気も感じられました。

充分な広さがありますので、プライベート空間は、家具で上手に隠されていました。この日は騒ぐ理由もなかったので、大きな音がどれくらい響くのかまで試してみませんでした。普段の生活でも、静かに落ち着いたライフスタイルとマナーが定着しているのでしょう。家具はアルテック製品で、アールト設計の椅子とテーブルです。床と天井の曲がったパネルは、設計通りの寸法に工場加工されたものを、現場で取り付けるプレハブ方式です。

様々な工夫があり、楽しい一日でした。

中庭から左右を見ても、室内から庭を見ても、自然が広がります。カーテンは、どこにも使われていません。室内に自然環境を取り入れる重要さを感じます。

中庭から左右を見ても、室内から庭を見ても、自然が広がります。カーテンは、どこにも使われていません。室内に自然環境を取り入れる重要さを感じます。

中庭から見える子供部屋にドアはありません。左側の本棚は絵本で一杯です。高窓からの自然光を浴びながら、家を一回りする子供達。庭に面する窓辺には何も置いていないので、運動会ができそうです。

中庭から見える子供部屋にドアはありません。左側の本棚は絵本で一杯です。高窓からの自然光を浴びながら、家を一回りする子供達。庭に面する窓辺には何も置いていないので、運動会ができそうです。

車椅子利用のための広いシャワールームは、ブルーの濃淡タイル張りで、左側のドアはサウナに続きます。シャワールームの外壁の窓には、外からの視線を遮断する木製格子がつけられています。

車椅子利用のための広いシャワールームは、ブルーの濃淡タイル張りで、左側のドアはサウナに続きます。シャワールームの外壁の窓には、外からの視線を遮断する木製格子がつけられています。