TOP > 海外情報 フィンランドフォーラム > 建築ブームの背景は?

海外情報 フィンランドフォーラム

建築ブームの背景は?

〜最近のフィンランド事情あれこれ〜

2017.7.13 / ソニー・ナカイ(グラフィックデザイナー、在フィンランド)

フィンランドの教育方針

イノベーション教育で注目されているアールト大学とは、ヘルシンキ工科大学、経済大学、芸術デザイン大学を2010年に統合して誕生しました。現在も結果の出ない部門を切り捨て、新しい思考に基づいて仕事を生み出す部門に予算つけを行い、ビジネスに対応できる教育を推進して、教育の技術革新=イノベーション教育の拠点となっています。

フィンランドのモダンデザインは1940年代に建築分野から始まり、80年代まではフィンランド独自のデザイン思想を追及して、世界での知名度を上げました。その後、1994年にEU加盟したことで、グローバル化を推進するとともに、世界が求める方向へまっしぐらに進んでいるという光景に変貌しています。

私の友人の一人に、「ネコヤナギ」を素材としてオブジェ作品にまで創造した作家のマルック・コソネン(1945-2010)がいました。彼は、「デザインとは、工業生産化でコストを下げて、大きな市場を確保するという定義がある。日本の伝統工芸の精緻な技に時間とコストをかける手法は『芸術』であり、デザインではない」と考えていました。

彼のデザイン思想は、森林資源国のフィンランドが、素材としての木材を輸出することより、それに「デザイン」を付加して、素材の価値を何倍にも高めることにあります。木を売るより、木のデザインを売ることで、輸出額は何倍にも増えますが、そのためには、近代化した機械を使い、変貌する時代のニーズに合わせることに、資源小国フィンランドの将来があると定義しました。だから、繊細な工芸の技法は、彼の世界にはなかったのです。そこにこそ、歴史文化の相違があるのでしょうね。

デザイン系の大学が、90年代にはデッサンなどの授業に終止符を打ったことで、教育方針の転換を証明しています。フィンランドの学生にとっては、就職が第一ターゲットであり、自分の個性を育て上げることがデザイン教育だと考えています。個性のないデザインなど考えられないからです。近い将来には、小学校から自分の好きな学科を自分で選択できるようになる方向へ進んでいくでしょう。

ヨーロッパでの美術教育はバウハウス思想から始まり、美術系大学での一般教養講座は、昔から採用されていません。「美大は美術専門を勉強する」と考えられてきました。これからはさらに個性を生かすために、将来、自分が集中したい科目だけを選択することが、小学校から始まります。おそらく、それほどの抵抗もなく実現していくでしょう。この教育方針は、国の教育の根本として広がっています。かたや、日本は長い歴史のある国であり、それが日本の個性でもあります。その個性を引き出して人道主義に従ったデザイン創作が日本人の素晴らしさであり、フィンランドと日本の個性がともに高く評価されることを信じたいものです。

フィンランドの夏と冬、コントラスト

改めて、フィンランドで驚くことの一つは、「日照時間が長いけれど、短い夏の楽しみ方」です。学校は10週間、会社でも4〜5週間の夏休みを、自然に囲まれた湖畔のサマーコテージで、海なら島に囲まれたアーキペラゴをヨットで探検するなど、無駄に過ごすことはありません。6月の気温は20度以下で春。7月も25度と、湿気のない涼しい夏です。運が良ければ、30度くらいの夏を体験できますが、1日か2日しか続きません。そのチャンスには、人が変わった様にビーチで騒ぎます。8月中旬はすでに秋なので、日本人の感覚では『夏らしい夏』とは、1か月しかないのです。この短い夏に、ヨットでバルト海のアーキペラゴ(多島海)の島々を探索する楽しさは充分わかりますね。でも、それに掛かる費用は? 毎年1〜2か月しか使えないヨットは、かなり多額な投資です。そのうえ、冬場(9月中旬から5月)の保管料金、5月には必ず、ペイントを塗り替えて、ヨットハーバーまでの運送費が必要です。贅沢としか言えません。

ヘルシンキ市内は夏の間はかなり静かになります。町っ子は田舎の別荘へ移動して、2か月もそこで暮らすので、地方都市の人口が冬と比べ増えるという不思議!東京のお盆休みと同じですが、2か月も続くのです。反対に、冬場は冬眠中。夏には、日の落ちない夜が続いて、活気で満たされるマーケット広場も人が減って、活気が失せます。レストランも夏には繁盛するものの、冬になると多くの店が閉めてしまうほど、季節変化の光景は、多くの田舎町では珍しくありません。

反対に、氷点下の日々が長く続く冬は、とにかく暗くて寒いのです。だからこそ、居住空間のインテリアデザインと、それに関連するHVAC (Heating, Ventilation And Air conditioning) の暖房技術に関する研究開発が進んでいて、零下20度の極寒地でも室内は問題なく快適に過ごせる仕組みが駆使されています。

ハンコの海岸都市に避暑地の魅力

ヘルシンキから西へ130キロに位置するハンコ(Hanko)は、以前は貿易港として栄えていました。日本からの輸入車を乗せた船舶は、ハンコの港に着岸したのです。現在、ハンコはヨットハーバーして大人気で、サマーリゾートの賑わいが感じされます。海岸沿いには、多くの木造サマーハウスが立ち並び、フィンランドの素晴らしい夏を過ごす街として、お勧めの雰囲気にあふれています。そのエリアに、今年から会員制のプールと新築マンションがオープンしました。このスパ&コンドミニアム・マンションは「モダンデザインのスパ・プールとサウナで健康アップ!」というポスターが魅力的でした。静かな夏の海岸リゾートに、最高の豪華な投資だと思います。

ホテルの会員制プールですが、冬のオフシーズンは一般利用もできます。いかにも夏と冬の人口数の相違を語っていますね。プールの大きな窓からは、森に囲まれた景色と海岸に沿って立ち並ぶサマーハウスの景色が続き、この町の上流階級の歴史と暮らしがしのばれます。シンプルなインテリアと高い天井はシンプルでありながらも、上品な優雅さを味わうことができます。

ホテルの会員制プールですが、冬のオフシーズンは一般利用もできます。いかにも夏と冬の人口数の相違を語っていますね。プールの大きな窓からは、森に囲まれた景色と海岸に沿って立ち並ぶサマーハウスの景色が続き、この町の上流階級の歴史と暮らしがしのばれます。シンプルなインテリアと高い天井はシンプルでありながらも、上品な優雅さを味わうことができます。

ハンコで開かれていた夏の骨董マーケットにて。イッタラやアラビアのデザイン陶器とヴィンテージグラス製品は大人気です。陶器に小さく数字が付いているのは、値段表示です。

ハンコで開かれていた夏の骨董マーケットにて。イッタラやアラビアのデザイン陶器とヴィンテージグラス製品は大人気です。陶器に小さく数字が付いているのは、値段表示です。