イケアの創業とコンセプト
さて、世界が注目するIKEAの企業名は、どこから生まれたのでしょうか?
I INCVAR 創立者の名前
K KAMRAD 創立者の姓
E ELMTARD 創立者の育った田舎町の地名
A AGUNNARYD スウェーデン南部の生まれた町の地名
イケアは1943年、現社長が17歳のときにはじめた田舎の雑貨店が母体になっています。以前にテレビ放送されたINGVARKAMRAD社長のドキュメントを思い出しました。彼は、目立たない古い普通の車に乗り、穴のあいたセーターを着て、どう見ても普通のおじさん姿。社員からは、好い人物と思われている一方で、自己主義的な存在と思われている一面もあるそうです。iPhoneを生み出した故スティーブ・ジョブズ氏を思い出させました。
2011年10月現在の情報では、イケアは326店のイケア・ストアを世界38か国でフランチャイズ契約を基本として展開するマルチ企業として活躍しています。企業体の本部をオランダに置き、法人税額を抑えていることも成功の要因のひとつと言われています。アジアの経済途上国で生産することで、安い労働力を利用しているとのニュースも耳にしたことがあります。確かに北欧は、人件費も税金も高い国々です。
日本でもこの7月に震災復興支援を目的に始めた仙台ミニショップで7店舗目がオープンになり、中国では偽イケアショップが話題になりました。
北欧デザインの個性と思想
北欧デザインとひとくくりにしても、フィンランド、スウェーデン、そしてデンマークとそれぞれのデザインに対する思想の特徴が見られますが、私にはこんなイメージがあります。
フィンランドで基本となるデザインの骨格が生まれ、そのデザインがスウェーデンで大幅に産業化される。そしてデンマークで世界へ発信できるマーケティング戦略が築かれて、世界へと発信される。
もちろん、各国が意識して、その役割を果たしているわけではないのですが、イケアのデザインにも、フィンランドで見かける物が多いのです。まさにフィンランドのデザインをスウェーデンで大量生産しているともいえるでしょう。また日本の北欧家具のバイヤーからこんな声を聞きました。「フィンランド企業とのビジネスは難しいところがあるが、デンマークでは空港に出迎えに来てくれるし、印刷物は日本語に訳されていて、リーズナブルな価格だから、スムースに交渉が運ぶ。世界へ発信する戦略がなんと整っていることか!」と。
イケアのデザイナーは基本的にスウェーデンのフリーランスのデザイナーで、時々日本人デザイナーも見かけますが、北欧の市民生活の中から生まれたデザインですので、北欧デザインであることは確かです。
素材、耐久性、デザインとその値段を考慮した時、イケアの品質は魅力的だと思います。まあ、安価な製品は、それなりに素材を節約していますので、品質はまあまあと思う人もいるかも知れません。また、家具はほとんどDIY組立ですから、下手な人がやって少し曲がったりすれば最終的な品質が落ちてしまうこともあるでしょう。運びやすくするために、かさばる家具を部品化して平たく梱包する【フラットパック】や、組立工程で、面白いジョイントの仕組みを体験できるのも、デザインの上で勉強にもなります。ご存知のようにDIYは北欧的社会生活では大きな役割を果たしていますが、最近驚いているのはDIY支払いです。自分で商品コードをスキャンして、自分でクレジットカード決済するシステムはイケアから始まったということです。
しかし、気取り無く、誰にでも使ってもらえる価格でスウェーデンのデザインを世界へ提供していることは事実ですね。
北欧デザインの共通項として、私自身が感じる北欧デザインの魅力は、
○厳しい気候のなかで居住環境(特に暖房)を考慮しながらも、
○自然性を巧みに取り入れようとすること。
○過度な節約に陥らないレベルの生活水準を保ちながら、
○高品質、耐久性のある物つくりを目指していくということ。
○北欧の生活環境にふさわしく、安全で使い易さを追求する。
そして、一部の金持ちのために豪華さを追及することではなく、一般市民のための暮らしを目ざしているのです。生活保護を受けている人たちにも差別なく、同じ広さの住居、暖房、水道、電気設備など同等の待遇で援助を受けています。私はこのような社会民主主義的な思想は、北欧の人たちに深く根付いていると感じています。衣、食、住で比較すると、やはり『住』にお金をかけます。また寒冷な季節には太陽を求めるので、旅行の費用も多いですね。食はかなり質素で、衣は清潔感のある物を好みますが豪華な物はあまり見かけません。たとえばグッチなどの『階級』を感じる高級ブランド品は、北欧の生活には浸透していません。
フィンランドデザインの場合、世界を相手に大量生産という企業はノキアだけですが、そのノキアも現在元気がありません。フィンランドの個性としては、オリジナリティーを強調、耐久性が高くてグッドクオリティー、価格は高くとも世界市場の中でニッチ・ビジネスを狙います。スウェーデンは、かつてはノルウェーやフィンランドを属国としていた『ゲオ・ポリティクス』の戦略国家でした。世界市場を狙うスウェーデンのファッション企業【H&M】も原宿の交差点に大きなブティックを建てましたね。それまでの北欧製品のイメージは高級で高価。それを庶民化したのがイケアです。高級北欧デザインと庶民北欧デザインの違いであるだけです。
まあ、フィンランドの場合、アラビアやイッタラの製品は値段は高くとも市民生活に浸透して、高級品という意識ではなく日常的に使っています。最近、一つ気に入ったイケアの皿のセットがあり、良く見ると陶器の白さやデザインが優れていて魅力的でした。値段を見るとアラビア製品と同じくらい。従来のイケアの低価格デザインイメージの他に、高品質のブランドデザインを狙う新しい戦略かも知れません。
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