海外情報 |
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2005.6.16
自由でお洒落な高校生活
〜フィンランド教育事情〜 |
ソニー・ナカイ グラフィック・デザイナー |
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以前、「森のようちえん」で北欧(デンマークとスェーデン)の幼児達が、自然豊かな森の環境を背景に、自立と自助努力の精神を育てていく過程を紹介しました。このような新しい試みは、北欧の人々の子育てと社会参加の基本的な教育方針として、着実に前進していくように感じました。 さて、そんな社会に生きる子どもたちが成長して高校生になると、どんな学校生活を送っているのか。フィンランド在住のソニーさんにレポートしていただきました。 |
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フィンランドの教育スタイル
フィンランドの教育法はOECDのPISA調査による世界各国との比較で高く評価されました。現実の学力だけでなく、子ども達の将来の可能性を含めた総合的な調査です。「何故、フィンランドか?」。その秘密をさぐるために、ヤルベンパー市(首都ヘルシンキから35km北にある人口3万人の都市)の高校で取材しました。 |
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新築された高校の外観、エントランスの受付カウンターの向うは吹き抜けのアレ−ナ |
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まず、エントランスから校内に入って驚くのは、3階分の円形の吹き抜けです。そこは「アレーナ」と呼ばれ、生徒達はそこで昼食をとっていました。 |
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3階から見下ろすアレーナは広々とした心地よい空間で、360度円形の天窓から光が射し込む。 |
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アレーナ1階はキャンティーンスタイルで清潔感あふれるお洒落な食堂になっている。 |
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アレーナを横切って、校長室に案内されると、アツォ・タイパレ校長は3年前に新築されたこの校舎を大変自慢しており、心よく時間を割いてくれました。 初めに、「私のモットーは生徒達が楽しめる学内の雰囲気を作る事です。」 大学入試前の大事な時期なのに、「楽しむ」ことを第一とする考え方には興味を覚えました。校長の説明の要点は、
1:強制的な学習からは本当の意味で学ぶこと、そこから人生にする動機が生まれるものではない。
2:生徒自身が楽しむことのできる学習環境から、自然に自分の個性に合った方向が定まる。
3:その力が人生への動機となり、学問を学ぶ原動力になる。
ということでした。
1週間の授業学習時間は25時間から30時間で、土日は完全にお休み。高校卒業後は、総合大学への進学率が40%、職業大学へ40%、残りの20%は就職です。留学生も多く、アメリカ、ドイツ、そして日本からと国際交流も大事にしています。
学生生活と自由選択制
次に、生徒たちに直接、話を聞く機会もいただきました。女生徒のサトゥ・ヘイノラ(Satu Heinola)、ピアマリア・ニエミ(Pia-Maria Niemi)、男生徒のアンティ・ラウタラハティ(Antti Rautalahti)の3年生。彼らの話では、高校に入学してから、自分で自由授業の選択ができ、その選択とその後の学習の進め方は、担当の先生がアドバイスしてくれる。自分の個性に合わないと思う必須教科(数学、語学、科学など)は、短期コースと長期コースと呼ばれる2種類の学習法を選択できる。つまり、好きでない教科は短期間学習、好きな教科は長い時間をかけて勉強するわけです。これと決めた自分にあう教科に集中することができ、学習に対する動機が向上した。と話してくれました。この学習期間として、長期は4年間、短期は2年間の選択ができるそうです。 |
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インタヴューに応じてくれたのは、左から生徒のサトゥ、アンティ、ピア・マリアとアツォ・タイパレ校長。 サトゥは心理学専攻を希望し、強制のない自由な学習に満足している。ピア・マリアは語学を目ざしている。 |
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授業のひとこま。OHPで映写していますが、帽子をかぶったままの生徒もいますね。1クラスは20名前後。 |
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クラスでは学習の遅れている生徒に自分が知っている知識を教えて、互いに助け合って勉強することで、クラス内の学習進度差が開かない様に、平等の関係を大切にしている、とも話してくれました。
先生と生徒の間柄はファーストネームで呼び合うもので、兄弟か友達の様な印象さえ受けます。これは、家庭でも幼時期の「パパ、ママ」を卒業すると、両親をファーストネームで呼ぶわけですから、こちらでは自然なこと。でも、日本人なら最初は驚くでしょうね。
特に制服といったものはなく、それぞれが自分の個性に合った服装で通学しています。高校生ともなると、こちらの女の子はかなり大人の雰囲気になり、お洒落は自由で、メイクも抵抗無く許されています。
廊下を歩いていると、デザイン性の高い家具が目に止まりました。学内では合計350台のパソコンが使われていて、その多くは生徒のために広い通路に設置されています。夜9時までは、誰でも自由に使うことができ、最新のビデオ、カメラ、楽器なども学習機器として開放されています。アレーナでは有志生徒のコンサートや演劇、また時には、外部からのショーも開催されます。体育館には、もちろんサウナ完備のシャワールームがあり、スポーツで汗をかいた後にはサウナですっきり。さすがにフィンランドですね。 |
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アレーナ廻りの通路に設置されたパソコン類は夜まで自由に使用できる。 |
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TVルームはガラス窓で区画されている。生徒のロッカーもシンプルで機能的なデザイン。 |
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その背景を探る
今日は5月23日で、今週の土曜日は卒業式。そして新学期の始まる8月10日まで、日照時間の長い季節で2ヶ月半の夏休み。ですから、生徒達の表情はうきうきしていました。フィンランドでは四季で1年を割り切っていますが、日本人から見れば、フィンランドの夏は6、7月、8、9月は秋、その後はずっと冬が続くような印象かもしれません。それゆえ、フィンランド人の天候、特に日照に対する感情は繊細です。短い夏に曇りが続けば、太陽の光を求めて南ヨーロッパへ行きますし、お天気であれば、湖畔で時を過ごす。短い夏の太陽を慈しむように大事にしています。そのせいか、夏休みの宿題は、小学校から高校を通じて一切ありません。日本の子ども達にはうらやましい限りでしょうね。
それでも、OECD調査では高い評価です。タイパレ校長は、「日本は人口がはるかに多いので、高度な学力の比較では高いランクに位置すると思うが、全学生の平均学習能力を比べてみると、フィンランドのレベルは高くなるのでしょう。」と、語っていました。
学費は幼稚園から大学まですべて国が負担するので無料です。学費に悩まされないことも、自由な教育・学習の権利の一つです。子供への金銭的な義務感もない。日本の親達にはうらやましい限りでしょうね。
自己主義社会のフィンランドでは、子供は大学生のうちに、自分の住むアパートを見つけてアルバイトをしながら、国からの学生ローンで自立しているケースが殆どです。親は友達みたいなものであり、それぞれに自立している。子供に対する経済的な義務感はなく、子供も親の老後の心配はしていない。それらの問題は、国が税金でまかなうことであり、それは我々が選挙で選ぶ政治家の仕事である、と理解している。フィンランドは世界で政治家への賄賂が最も少ない国でもあります。
(私が在学した当時のヘルシンキ美術大学では、誰でも1年生は、裸体デッサンやスケッチが必須でしたが、最近は1年時から徹底的に自分の学科に関する学習に絞られています。また、将来仕事にならないと考えられる学科は、学部への予算削減ばかりか、学部の廃止もありえます。ドライですね。) |
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現在は車椅子利用の生徒はいないが、建築基準法により公共施設には必須の設備である。 |
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校内での喫煙はすべて禁止されているが、屋外に喫煙場。先生だけでなく生徒もスモーキング! |
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日本では、数年前から取り組み始めた「総合的な学習」の成果を認めながらも、現実には、学力の低下が懸念されて、「ゆとり教育」方針も見直されようとしています。クラブ活動も自由とはいえ、半強制な雰囲気。塾通いで補うとしても、親子とも時間的、経済的に大変。一方では、子ども達の犯罪や自殺といった悲しいニュースもあとを絶ちません。学力も体力も精神力の強化も、学校だけで培われるわけではなく、先生にも親にも子どもにも、大きなストレスになっているのかもしれません。
次回は、高校生の私生活やライフスタイルについてもソニーさんにお聞きしたいですね。 |
(せきゆうこ フィンランドフォーラム・コーディネーター) |
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