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お隣同士の微妙な関係

北欧三国のデザイン個性

2013.06.27 / ソニー・ナカイ(グラフィックデザイナー)

北欧3国のデザイン共通性と特異性

まだ真冬の2月に、私は隣国スウェーデンの首都ストックホルムで開催された【ストックホルム・デザインフェア】に行ってきました。スウェーデン南部にあるヨーテボリ・デザイン大学のブースで見かけた作品の中に、以前フィンランドで見た作品を見つけました。
フィンランドとスウェーデン、さらにデンマークを加えて、【北欧デザイン】という統一イメージで見られています。多分、北欧的なデザインという漠然した印象があるのでしょう。しかし、私は北欧社会のなかで、デザイナーとして生活しています。改めて、北欧三国のデザインに対するコンセプトやビジネスセンスの相違を肌で感じるときがあるのです。
一般的な北欧の生活デザインからは、北国の落ち着いた自然環境に通じるシンプルさが伝わってきます。そんな共通のデザイン性があるにもかかわらず、それぞれの国に根ざしたデザインの手法と技法があります。
端的に言えば、フィンランドでデザインの新しいコンセプトが生まれ、生産技術に優れているスウェーデンで、大量生産のプロセスが改良されて製品化されます。そしてデンマークでグローバルな市場へ向けた視野で、流通販売のシステムが構築されます。フィンランド、スウェーデン、デンマーク三国が優れたデザインをグローバル化させるまでのプロセスを、具体的にたどってみましょう。

第1ステップ フィンランド

フィンランドには、デザインを製品化する企業の絶対数が少ないので、一流のデザイン大学を卒業しても、企業内デザイナーとしての就職は、ほぼ不可能です。一方で、企業は人気の高いデザイナーをフリーランサーとして使う風潮にあります。だからフリーのデザイナーは、企業という組織ではなく、単独でクリエイティブな思考を育てていかなければなりません。したがって、デザインの才能という面を強調して、重視する傾向があります。
実際にフィンランドでは、デザインを根本においた上で製品化するための機械加工の工程を把握して、新しいプロダクトが生まれています。しかし、売り込み方法を見ると、ベストとは思えないところが多々あります。第一に商品価格の高いことがあげられます。また、共通語といえる英語のパンフレットはありますが、大きなマーケットであるはずなのに、日本語版は手に入らないのが現状です。

第2ステップ スウェーデン

たとえば、イケアの組立て家具の箱を開けてみると、部品のジョイントや組立ての仕組みに、面白い工夫があります。以前にもリポートしましたが、イケアは製品から流通販売まで、DIYのコンセプトが徹底しています。一方では、世界中の安い労働力を駆使して、デザイン性の高い製品を手ごろな価格で提供していると思います。
イケアのほかにもH&Mなどが、低価格でありながらデザイン性のある製品を生み出す企業として、世界市場に進出しています。北欧発のデザイン企業がグローバルなマーケットで一定のシェアを確保しています。
スウェーデンにはデザイナーの図面さえあれば、それを生産から販売まで一貫してサポートする会社があります。生産自体は低賃金国の労働力を使うという、徹底した手法です。やはり以前に紹介したDesign House Stockholmもそのような会社で、フィンランド人デザイナーの作品も数多く取り扱っています。その担当者がストックホルムのデザインフェアでこのように話してくれました。

1 生産コストを抑えるために、労働賃金の低い国、地域で生産する。
2 企業活動で培ったグローバル・マーケットのネットワークを使い、販売網を構築する。

今日、有名になったフィンランドのデザイナーも、若い頃にミラノサローネでプロモーション・エージェントに会い、彼らはメディアへ売り込みから着手しました。世界的なデザイナーとして成功するための最初の一歩を、そこから築いたのです。デザイナーのイメージを作りあげる戦略と世界に展開するテクニックは、確かなものです。

第3ステップ デンマーク

私の知人である日本人の家具バイヤーの感想です。
「コペンハーゲンの空港に到着すると、既に出迎えの人が待機していて、必ず日本語のパンフレットを渡してくれるし、価格や決済など取引に関する重要事項はすべて分かりやすく伝えてくれる。商談の内容が明確であり、日本国内と同じ感覚でビジネスが進行する。価格も手頃であるため、買いやすい印象だ。」と語っていました。