海外情報 |
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2005.2.15
日本人とフィンランド
〜デザイナーが見る共通点と相違点〜 |
ソニー・ナカイ グラフィック・デザイナー |
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成田・関空−ヘルシンキはフィンエアー直行便で9時間ほどになりましたが、両国はやはり遠く離れています。異なる気候風土にあり、それぞれの民族独自の歴史があります。しかし、日本人とフィンランド人それぞれが、「自然」に対して抱いている感性や気質には、通じ合うところがあるようです。その陰に隠れた共通点を探してみましょう。 |
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左はペッカ、右はソニー。二人のデザイナーの横顔。 |
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私自身がデザインに関わる仕事をしていますから、デザイナーの視点からその共通点を考えてみました。まず言えることは、両国人とも「木」に関する感性と深い愛情という点で共通するようです。たとえば、フィンランドデザイン界の代表的なプロダクトデザイナーであるカイ・フランク(Kai Frank)が初訪日した際に、受けた強烈な印象を語る言葉があります。「日本人は木の箸だけしか、その口に入れない!」
裏返していえば、「鉄製のフォーク(つまり、硬い野蛮なもので、西洋文明の比喩につながる。)をデリケートな身体に触れない。」ということでしょうか。まさに、彼なりの「日本の文化」に対する直感的な理解の仕方です。
「木」即ち「自然」を深く愛する心情は、豊かな森林に囲まれた両国民に共通するものだと思います。日本人が培ってきた自然に対する美的な感性は高く評価されています。その独自の自然環境から表出される芸術的な表現は、フィンランド人に共鳴するものがあるようです。こちらのデザイナーの作品には、日本的な感性を受けるものが見られますから。 |
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春はあけぼのに浮かぶ湖の氷。夏は夜でも明るい。
秋は夕暮れ時の白樺のシルエット。冬は早朝の初雪の眺め。
フィンランドにも、それぞれの四季の風景が展開します。
清少納言ならどんな「枕草子」を綴ったでしょうか。 |
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それなのに何故、現代の日本人の暮らし、特に都会での生活は、自然に対する感性からはほど遠いのでしょうか。日本人は、「本来の自然ではないものを、すんなりと認めてしまうところがある。」のかと疑います。
たとえば、竹が豊かに自生するのに、精巧なプラスチック模造品が「竹林公園」の竹垣に化けていたり、露天風呂の垣根にも使われています。腐らない上に取替の手間がかからなくて安上がりだからでしょう。本当は、徐々に腐って自然に還っていく素材の方が、トータルに考えれば経済的なのです。それに、よく手入れされた本物の樹木や草花の庭を、結局、台無しにしているのに気付かない訳ではないでしょう。屋上庭園になると、庭石さえもプラスチックです。木目模様を印刷した極薄シートを貼り付けた材料もあたりまえに使われています。ある意味ではお手軽ですが、そのうちに、本物との区別がつかなくなるかもしれませんね。
フィンランドを訪れる人々が初めて降り立つのはヘルシンキ郊外のヴァンター空港です。 最近、フィンランドの木材を利用して大々的に改修されました。林立する柱には国産材を利用して、森のイメージを広げています。
フィンランドを訪れる人々が初めて降り立つのはヘルシンキ郊外のヴァンター空港です。 最近、フィンランドの木材を利用して大々的に改修されました。林立する柱には国産材を利用して、森のイメージを広げています。 |
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住宅の中に取り入れられた「木」とそのデザインにも日本的なモチーフが見られます。建築家アルヴァー・アアルトの代表作のひとつ、マイレア邸の居間には、日本建築の壁面分割や障子の格子からの影響がはっきりと見えています。居間から2階につながる階段には、竹林を思わせる仕切りがあり、本物の竹を使用しているところもあります。 |
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次のコッコネン邸もアアルト設計の住宅です。素材としての「木」を巧みにデザインしています。これは私が住む、ヤルヴェンパーの町にありますので、日本の皆様においでいただければご案内しますよ。 |
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一般的なフィンランドの都市郊外住宅では、家族4人で約100m2というのが平均的な広さです。敷地の広さは様々ですが、湖に続く土地であれば湖畔のサウナ小屋と桟橋、自家用のボートも持っています。冬は母屋に設置された浴室とサウナを使うのがフィンランド人にはごく普通のことです。昔は暖房効果のために小さい目の窓でしたが、今は大きな窓の明るい部屋が人気です。右下のダイニングルームもガラスを多用して明るく、窓の外の風景が自然に溶け込むようなデザインです。 |
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もちろん、フィンランド人と日本人の相違点は多くあります。それを探して、現代の日本人の生活空間を一層豊かなものに変えていくヒントになればと思います。
たとえば、「孤独」というものに対する両国人の心情はどうでしょうか。「孤独」という言葉からは、日本人なら「淋しい、一人ぼっち、かわいそう」というマイナスイメージがつきまといがちです。誰か他の人と一緒に居て、コミュニティーとの確かな繋がりの中で自分の居場所を確かめるという人間関係が根づいていて、これは善い事でもあります。逆に、良い意味での個人主義が根づいている北欧では、一人で自由に力強く生き抜く積極的な姿が浮かびます。
前にも紹介しましたように、フィンランドでは「自分で家を建てる」人が多く、自分自身の生活空間を自力で作り上げるという過程を通じて、自立と自覚の精神を育んでいく気風があります。
子供に対する教育の場面でも、本物の道具(ナイフなどの刃物)をもたせて、木工をさせています。怪我をした場合には、正しい応急処置の方法を教え、その痛さとそれを防ぐ智恵を身体で覚えるように指導しています。こんなことからも、幼時からの自立精神が育てられるのだと思います。
プロダクトデザインの世界でも、自然素材独自の美しさに注目し、シンプルな形で「美」を表現するものが目立ちます。デザイナーのマルック・コソネンが自作している猫柳を編んだ籠は、日本の簡素で豊かな美しさを感じさせます。同じくコソネンの「七つ入れ子の桝」を重ねて積んでみました。これで日本酒を飲みたくなってきますね。 |
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最後にご紹介するアラビア社製のティーポットは1970年代の作品です。これを見ていると、日本が恋しくなります。当時、私は貧しい学生でしたが、日本の日用品である土瓶や急須を思い出して、思わず買ってしまいました。今でも、日本の美の素晴らしさをかみ締めながら使っています。 |
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フィンランド人のコーヒータイム
フィンランド人は大のコーヒー好き。いつでも、どこでも、コーヒーが出てきます。 一人あたりの消費量は世界一。
彼らのコーヒータイムを彩るお菓子とスナックをご紹介しましょう。(左上から時計回りに) |
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(1) |
プッラは家庭でも普通に焼かれているカルダモン風味の菓子パンで、お母さんの味。 |
(2) |
プースティはシナモン風味の菓子パンで、焼きたてのホカホカはバターの香りが魅力的。 |
(3) |
ヴィーネリのチェリーの赤い色は食欲をそそります。 |
(4) |
「レイパ」は「パン」のことですが、やはり色黒のライ麦パンが主流。小麦粉だけの白パンよりも健康的で、フィンランド人が外国に行くと、 必ず恋しくなる食べ物のひとつ。 |
(5) |
サーモンは薄い塩味を付けた鮭・鱒類のスライスで、日本のサシミ感覚。フィンランド人にとっても、魚をナマで食べることはあたりまえですね。 |
(6) |
サンピュラは丸パンのサンドイッチ。チーズやハムなどを挟んで、朝食から夜食まで、コーヒーと一緒に食べています。日本のオニギリみたいな感覚。町中にあるのカフェでも人気者。 |
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「フィンランドじゃ、孤独っていっても、ポジティヴな感じなんだよね。」といわれたことがあります。田舎だと隣家まで何10キロもあるし、湖の中に浮かぶ小島に別荘を建てて、そこで一夏、一冬を一人で過ごす老婦人もいます。日常の用事や買出し時は、自分でボートを漕いで渡り、船着場に車や自転車を置いて、それでショッピングなどを済ませます。
一方では、携帯電話や自家発電のTVなど便利な機器もそろえているから、不便ではないのでしょう。サークル活動などの社会参加もあるし、家族の絆も結構強い。ワビシイとかサミシイという印象はありませんでした。日本人、特に一人暮らしの高齢者も将来はこんな風に変わっていくのでしょうか。皆様からも、自由なご意見をどうぞ。 |
(せきゆうこ フィンランドフォーラム・コーディネーター) |
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